言語政策

2009年06月28日




EUにおける多言語主義と複言語主義…、こりゃまた難しいテーマの講演を、日頃お世話になっている先生がなさるということで、神戸某所へ、講演会を聴きに行った。

多言語主義、という言葉は聞いたことのある人も多いはず。要はある社会に複数の言語が並立してる状態である。
で、聞き慣れない「複言語主義」とは何ぞや、というと、

ある人間が、一つ以上の言語に、たとえ部分的とはいえ開かれて、ある程度の複合的な能力を持ち、コミュニケーションのための言語を自分の第一言語だけに限定しない価値観を有していること。 (講演会レジュメより抜粋)

という考え方なのらしい。

自身の経験から分かりやすく例えを使うと、
多言語主義の好例は、スイスの、チューリヒではドイツ語が通じて、ジュネーブではフランス語しか通じない、という状況だろう。
一方、あるレストランで、スコットランド人の友人が、ボクに出された料理を見て、「Looks おいしい」と語ったことがある。これは最も身近な複言語主義の例、ということになるのだろうか…。


ところでオーストリア在住時、EUでは、英語と、もう一つ、隣国の言語を外国語として学ぶことが奨励されている、というのを聞いたことがあったが、この日、「理論上は」英語は学ぶ外国語として必須、というわけではなく、EU圏内において特に話者の多い、「大言語」とされているドイツ語、フランス語、イタリア語…などと同じ地位なのらしい、ということを知った。
なるほど、英語はあくまでOne of Themなわけである。 EUの多文化政策ってのが徹底しているのがうかがえる。

ただし、実際は国際言語として英語は圧倒的な地位を占めているので、第一外国語としては英語を、そして第二外国語として、異文化理解のための隣国語を学ぶ、というケースが多いらしい。

経験的にはフランス人は英語以外にスペイン語かドイツ語を学んでた、という知人が多くて、オーストリア人は英語以外にフランス語かイタリア語を学んでいた、という知人が多い。オーストリアでフランス語、っていうのは少しEUのディシプリンから逸れているのかもしれないが、ドイツ語の「隣」言語はフランス語だから大丈夫、なのだろうか…(ただし当時は東欧諸国はEUに加盟しておらず、それらの国との関係が不透明で、かつそれらの国の言語を教える教員が圧倒的に不足していた、ということもあるのだろう)。


さて、複言語主義の話に戻って、今回の講演会は、あくまでEUの複言語主義の事例の紹介、というものであって、日本のそれとの比較、などに射程をおいたものではなかった。
そこで、一点、今回の講演会で気付いた、自身が考える日本の外国語教育のについての問題提起をしたい。

それは、EUでのドイツ語教育と日本でのドイツ語教育は全く意味が違うのではないか、ということ。
ドイツ人の講演者の方は、フランス人がドイツ語を学ぶ、ドイツ人がフランス語を学ぶということは、隣人を知ることであると同時に、普仏戦争以来の両国の禍根の「和解」の入口である、ともおっしゃった。
この事例は、複言語主義を支える根幹の価値観につながっていると思われる。

では日本人がドイツ語を学ぶモチベーションは何に支えられているのだろうか。
フランス語にも言えることかも知れないが、ボクは、一種の「西洋趣味」であるような気がしてならない。


「西洋趣味」が悪いことだとは思わない。
けれども、この講演会を通して我々が考えるべきなのは、日本における「複言語主義」の可能性なのではないか、とボクは感じた。
それが東アジアを巻き込んだ「複言語主義」であれ、日本国内の方言あるいはアイヌ語との「複言語主義」であれ、何かできることはないだろうか…。


(写真はドイツ語圏某所のフランス語書籍専門店)  


Posted by migu9 at 01:27Comments(0)Diary